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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)3598号 判決

原告

今永公男

(外六四名)

右原告ら訴訟代理人弁護士

加藤康夫

右訴訟複代理人弁護士

石川礼子

山口健一

被告

全逓信労働組合

右代表者中央執行委員長

伊藤基隆

右訴訟代理人弁護士

山本博

平田辰雄

小池貞夫

斉藤驍

金子光邦

主文

一  被告は、原告斎藤宗護に対して金三万円、同有吉常裕、同北口菊男、同栗秋和治、同石田利夫、同木原一信及び同岩野準司に対して、それぞれ金二万円、同小金丸吉隆、同市丸宗俊及び同加藤千加雄に対して、それぞれ金一万円、同上田学に対して金一〇万円、同太田隆興に対して金四万円、同村上敏幸に対して金八万円、同宮森勝基、同百田直孝、同村田敏廣、同石井登、同崎山登、同筒井優、同野田照幸及び同吉良正夫に対して、それぞれ金一万五〇〇〇円、並びにこれらに対する昭和五〇年五月一六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、すべて原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は原告らに対し、それぞれ、別紙1(略)「集計表」の合計欄記載の金員及びこれらに対する昭和五〇年五月一六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、別紙2(略)「謝罪広告」の名宛人欄記載の原告らに対し、それぞれ、西日本新聞及び被告の発行する全逓新聞に、二段半の面積をもって、別紙2「謝罪広告」に記載する内容の謝罪広告を掲載せよ。

第二事案の概要

一  本件の基礎となる事実(本項に記載した事実は、特に証拠をあげて認定したものを除いて、当事者間に争いがない。)

1  当事者

(一) 被告は、郵政労働者で組織する労働組合であり、中央本部を頂点とし、その下部組織として、全国一一の地方郵政局ごとに地方本部、各府県ごとに地区本部、地区本部の下に適宜の数の支部が設けられている。

(二) 原告らは、昭和四三年当時、福岡中央郵便局、福岡西郵便局又は筑紫郵便局に勤務する郵政労働者であって、いずれも、被告の福岡中央支部(以下「支部」という。)に所属していた。また、昭和四四年一二月三日当時、支部役員として、原告今永公男が支部長に、同吉村敏明が副支部長に、同宮原俊明、同石村昌弘、同斎藤宗護、同有吉常裕、同平川辰幸、同吉田善憲、同杉野三千男、同村上敏幸及び同松林忠利が執行委員に、同高良伸一が青年部長に、同上田学、同石橋勇治、同原田蔵、同岩野準司、同田村昌弘及び同小西広孝が青年部の常任委員に、それぞれ就任していた。

2  支部における組織紛争

(一) 支部においては、昭和四二、三年ころから、運動の基本方針を巡って対立が生じ、昭和四三年暮れころには、福岡中央郵便局集配課に所属する一部の組合員が「職場を明るくする会」なる団体を結成して原告今永公男を支部長とする支部執行部の指導を批判するなどの行動をとるようになった。

これに対して支部執行部は、昭和四四年一一月一三日付で、「当局の飼犬に転落し組織を喰いつぶす“職場を明るくする会”を粉砕せよ!」という内容のビラを配布しようとした。しかし、事態を重視した被告の福岡県地区本部(以下「地区本部」という。)は、昭和四〇年以来推進してきた総対話、納得ずくの運動路線、団交重視の闘いに反する等の理由で右ビラ配布の中止を指導した。

(二) 支部執行部は、この指導に反発し、昭和四四年一一月一五日、地区本部に対し、「職場を明るくする会に対する地区本部の態度を明確にせよ。右会に対する地区本部の責任を明らかにせよ。右会に対する指導を明確にせよ。」との要求を出し、これに対し、地区本部は、同月二〇日付の指導文書で、職場を明るくする会が結成された主な原因は、支部執行部の組織運営に問題があるからで、職場を明るくする会が分裂策動を行っている事実は認め難いとする回答を行った。

(三) この地区本部の回答に対して、支部執行部は、同月二二日付の文書で、職場を明るくする会についての地区本部の指導は抽象的であり、あいまいであるとして、更に釈明を要求した。

(四) 同月二四日に支部闘争委員会が開かれ、地区本部の書記長、組織部長がこれに出席して職場を明るくする会の問題について討論したが、支部執行部は、その中で、同月二〇日付文書指導の撤回を迫り、場合によっては執行部が総辞職するか又は地区本部の指導の当否に関する支部臨時大会の開催を求めざるを得ないとの態度を表明するに至った。そこで、地区本部は、同月二六日、被告の中央本部(以下「中央本部」という。)に対して支部問題についての報告を行い、その指導を要請した。これを受けて中央本部は、案納勝中央執行委員を福岡に派遣して調査に当たらせ、同年一二月一日付で指導九項目を発した。

この指導九項目の要点は、〈1〉支部における職場闘争及び組織対策については、支部は当分の間地区本部の指示、指導に従うこと、〈2〉役付組合員及び職場を明るくする会に対する組織対策は、当分の間地区本部が当たり、支部はこれらの対策を中止すること、〈3〉支部内における組織対策上及び闘争指導上の問題については、中央本部として引き続き調査を行うが、当面、地区本部執行委員長に調査活動を委嘱すること、〈4〉闘いの大衆化を図り、納得ずくの運動路線の展開によって職場の一集団的運動形態による不団結の要因を克服するため、職場内において組合員相互間におけるイヤガラセや暴言、暴力によるような行為はこれを排除すると共に総対話運動を強化すること等を内容とするものであった。

(五) 中央本部、地区本部及び支部は、その後、指導九項目を巡って協議を行い、その中で支部執行部は、右指導の不当性を訴えたが聞き入れられなかったことから、一旦は、内容に不満はあるが組合組織の関係で指導は受けざるを得ないとの態度を表明し、事態は解決するかに見えた。ところが、同年一二月三日、前記1(二)記載の原告今永公男らの支部役員は、組織問題を起こしたことの責任を感ずるとの理由で、地区本部に対し、一括して辞任届を提出し、撤回を求める地区本部の説得にも応じなかった。

(六) そこで、中央本部は、同月四日、指令二二号を発し、地区本部に対して、支部の新執行部が成立するまでの間、支部における代表権、団体交渉権、組織運営に関する業務などの支部執行業務について代行すること、指導九項目を実行すると共に支部組織の再建に努力することなどを指導した。その後、中央本部は、昭和四五年一月一四日から一八日まで、中央執行委員七、八名を福岡に派遣して指令二二号の趣旨の徹底を図るオルグ活動を行ったが、上部機関の指導を非難するビラが配布されるなどの状況のため成果をあげることができなかった。そこで、中央本部は、被告の組合員として行動する意思を有する者の範囲を確定するために、支部組合員を対象として、被告の綱領、運動方針、中央本部の指導九項目及び指令二二号を遵守し組織の団結を固め闘うことを確認する旨の団結確認書に署名を求めることとし、同年二月八日から一六日まで団結確認書への署名を求める活動を行った。

(七) 当時の福岡中央郵便局に勤務する被告の組合員数は約五〇〇名であったが、この団結確認書に署名したのは約三〇〇名に止まり、団結確認書への署名を求める活動も不成功に終わった(この事実は、〈人証略〉の証言により認められる。)。

(八) このような状況の中で、中央本部は、同月一七日、指令二七号を発し、〈1〉支部組合員全員の組合員資格を一時停止すること、〈2〉支部組合員を対象として、被告の綱領、規約、運動方針、機関決定、指令、指導を守り忠実に行動する旨の確認を求めるために、同月二二日を期限として再登録を実施すること、〈3〉既に団結確認書に署名している者については再登録の手続を省略し組合員として認定するが、それ以外の者については再登録の申請に基づき審査を行い、再登録を承認された者を組合員として認定し、これらの組合員をもって支部の再建を図ることなどを指導した。

また、指令二七号においては、前記(五)の支部役員の辞任届を提出した原告らについて、その行動が組合規約四四条に抵触するとして、同規約四八条に基づく仮の制裁として無期限の権利停止処分にすることが明らかにされ、同月一七日付で、原告今永公男、同吉村敏明、同宮原俊明、同石村昌弘、同斎藤宗護、同有吉常裕、同平川辰幸、同吉田善憲、同杉野三千男、同村上敏幸、同松林忠利、同高良伸一、同上田学、同石橋勇治、同原田蔵、同岩野準司、同田村昌弘及び同小西広孝に対して、この無期限の権利停止処分(以下「本件仮制裁処分」という。)が行われた。

(九) 中央本部が右のような指令二七号を発した日の翌日である同月一八日、原告今永公男、同浜野功、同田中義巳、同石村昌弘、同吉村敏明、同船越莞太郎、同高良伸一、同石河正光、同吉田善憲、同堀内三十四、同上原利信、同中野恒文、同安松浩司、同合屋良基、同石橋勇治、同播磨由隆、同原田蔵、同脇坂吉男、同加幡英幸、同横山学、同小西広孝、同松田正寛、同田原重美、同境善政、同杉野三千男、同石掛実、同梅崎邦昭、同宮原俊明、同北島三夫、同小山哲也、同西首松二、同津上良雄、同鳥飼豊行、同今村豊美、同松林忠利、同橋口義彦、同小田康人、同藤川誠治、同田村昌弘、同江田久夫及び同神戸剛二を含む八七名は、被告とは別の労働組合である全福岡中央郵便局労働組合(以下「全福中労」という。)を結成してこれに参加し、同月二四日付で、被告に対して脱退届を提出した。また、原告らは、いずれも、同月二二日の期限までに前項の再登録申請を行わなかった。

また、原告平川辰幸、同槻木敏雄及び同金子昭男は同月二一日に、同加藤千加雄は同年三月五日に、同市丸宗俊は同年五月一日に、同小金丸吉隆は同年六月一日に、同斎藤宗護、同有吉常裕、同北口菊男、同栗秋和治、同石田利夫、同太田隆興、同木原一信、同岩野準司、同宮森勝基、同百田直孝、同村田敏廣、同石井登、同崎山登、同筒井優、同野田照幸及び同吉良正夫は昭和五二年九月一日に、それぞれ、全福中労に加入した(被告は、後記二の1(二)(1)のとおり、原告平川辰幸、同槻木敏雄、同金子昭男及び同加藤千加雄について、これらの原告は昭和四五年二月一八日の全福中労の結成に参加した旨を主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえって、成立に争いのない甲第二七一号証、乙第三七号証及び弁論の全趣旨によれば、右原告らは、それぞれ、上記の日に全福中労に加入したものであることが認められる。)。

なお、全福中労は、昭和五六年六月に全福岡郵政労働組合(略称は全福郵労)と名称を変更した。

(一〇) 被告は、前記(八)の再登録申請を行わなかった支部組合員は期限の経過によって被告の組合員資格を喪失したものとして扱うと共に、昭和四五年三月三日、再登録手続を終えた組合員五二八名の氏名を公表したが、原告らは、いずれも、この中に含まれていなかった。

(一一) この再登録手続については、昭和四六年に、原告上田学及び同村上敏幸が、被告を相手取り、その無効を主張して組合員たる地位の確認を求める訴訟を提起し、昭和六二年一〇月二九日、最高裁判所において勝訴の判決を得て確定している(このことは、成立に争いのない〈証拠略〉によって認められる。)。

3  統制処分等

(一) 被告は、前記2の経過のもとで、昭和四五年一月中旬以降、原告らを「はねあがり分子」「組織破壊分子」などとする教宣を行い、更に、指令二七号を発した同年二月一七日以後は、「組合機関の決定に違反した」「組合の秩序を乱した」「統制違反行為者」「分裂主義者」「今永一派」などと非難する教宣を行った。

(二) 被告は、同月二八日の第四六回中央委員会において、原告今永公男、同浜野功、同田中義巳、同石村昌弘、同吉村敏明、同船越莞太郎、同吉田善憲、同中野恒文、同小西広孝、同境善政、同杉野三千男、同梅崎邦昭、同宮原俊明及び同北島三夫を同月一九日付で被告組合から除名する旨の統制処分(以下「本件除名処分」という。)を行った。

(三) 被告が本件仮制裁処分及び本件除名処分を行ったことは、そのころ、朝日新聞、毎日新聞、西日本新聞及び被告の発行する全逓新聞等で報道された。

4  犠牲者救済金

(一) 被告の組合規約五八条及び犠牲者救済規定(以下「犠救規定」という。)によれば、被告は、その組合員に組合機関の決定に基づいた組合活動により解雇、免職、昇給延伸等の救済しなければならない一定の事由が生じた場合には、犠救者救済委員会(以下「犠救委員会」という。)の適用決定に基づき、犠牲者救済金(以下「犠救金」という。)を支払うこととされている。

(二) 原告今永公男、同浜野功、同田中義巳、同石村昌弘、同吉村敏明、同船越莞太郎、同高良伸一、同斎藤宗護、同有吉常裕、同平川辰幸、同石河正光、同吉田善憲、同槻木敏雄、同北口菊男、同堀内三十四、同栗秋和治、同上原利信、同石田利夫、同中野恒文、同安松浩司、同小金丸吉隆、同合屋良基、同市丸宗俊、同上田学、同石橋勇治、同太田隆興、同播磨由隆、同原田蔵、同脇坂吉男、同加幡英幸、同横山学、同小西広孝、同松田正寛、同田原重美、同境善政、同杉野三千男、同石掛実、同木原一信、同岩野準司及び同梅崎邦昭には、いずれも、別紙1「集計表」中の「個人別」内訳及び年度欄記載(慰謝料を除く。)のとおりの救済事由が生じており、実際に救済が行われるとすれば、犠救金の額は、右「集計表」の犠救金等欄記載のとおりである。

二  争点

1  本件の争点の第一は、原告らは、被告の組合員資格を喪失しておらず、別紙1「集計表」の犠救金等欄記載のとおりの犠救金の支給を受けることができるか否かであり、この点に関する当事者双方の主張は、次のとおりである。

(一) 原告らの主張

(1) 原告らは、いずれも、被告の組合員資格を喪失していない。被告が発出した指令二七号は、思想、信条等によって組合員たる資格を失わないことを保障した組合規約三五条二項、組合員は退職、死亡、除名及び本人の意思によるほか組合員資格を奪われないことを保障した組合規約三九条に違反する違法、無効なものであって、被告がこのような指令二七号を発出すると同時に原告らを含む支部組合員全員の組合員資格を剥奪したために、原告らは、団結権を自らの手で守らなければならない状態におかれ、その一部は、緊急非難行為として、已むなく全福中労の結成に参加したのである。このように、全福中労の結成は緊急非難行為であって、全福中労の結成に参加した原告らは、被告が違法、無効な指令二七号を撤回し、職場を明るくする会の問題について明確な態度をとり、被処分者(当時当局より処分されていた組合員を指す。)を守り、支部役員選挙に当たり立候補者に制限をつけず、官僚統制ではなく組合員の声を聞く組織運営をするのであれば、いつでも全福中労を解散する旨を表明していたのである。また、原告らの一部の者が被告に対して脱退届と題する書面を提出したのは、使用者である郵政当局に全福中労を交渉団体として認めさせるためと、指令二七号が撤回若しくは無効と確認されたときは、当然に当初から被告の組合員であるが、それまでは組合活動に参加しないという抗議の趣旨で行ったもので、真意に基づかないものである。

被告が、違法、無効な指令二七号の発出から自らの団結権を守るための緊急非難行為として全福中労の結成に参加し脱退届を提出せざるを得なかった原告らに対して、組合員資格の喪失を主張することは、それが容認された場合、違法、無効な指令二七号による効果(原告らの組合員資格の剥奪)を認める結果となるのであって、信義則上許されない権利の濫用であり公序良俗に反する行為であって、許されない。

(2) 組合員に統制違反を犯した者がいる場合には、具体的な統制違反行為を指摘して組合規約に則って統制処分をすべきであり、再登録によって組合員資格を剥奪することは許されない。また、本件再登録においては、再登録申請をした組合員を被告が審査することになっているが、その審査基準によれば、支部旧執行部に好意を持つ者は排除されることになっており、思想統制ともいうべきものであった。したがって、本件再登録は、組合員は退職、死亡、除名及び本人の意思によるほかは組合員資格を奪われないとする組合規約三九条に反し、思想、信条等によって組合員たる資格を失わないとする組合規約三五条二項に反するものであって、違法、無効である。

(3) 以上のとおり、原告らは、いずれも、被告の組合員資格を喪失していない。そして、被告の犠救規定によれば、組合員には犠救金の支払を受け得る一般的な権利が存在し、犠救規定の定める犠救事由の発生及び犠救委員会の適用決定によって個別的、具体的な犠救金請求権が確定することになっており、救済事由の発生によって不利益を受けた組合員から進んで申請等の手続をとる必要があるというものではない。

原告らの犠救金請求のうち、原告今永公男の昭和四三年度見舞金五万円、同浜野功の昭和四四年度見舞金五万円、任意出頭一〇〇〇円、昭和四五年度退職金四七万八八〇〇円、同田中義巳の昭和四四年度逮捕三〇〇〇円、勾留九〇〇円、起訴一万円、同石村昌弘の昭和四四年度家宅捜査二〇〇〇円、逮捕三〇〇〇円、勾留九〇〇円、起訴一万円、同吉村敏明の昭和四四年度逮捕三〇〇〇円、勾留九〇〇円、起訴一万円については、既に犠救委員会の適用決定がされているのであるから、被告は犠救規定に基づく具体的な支払義務を負うものである。

原告らの犠救金請求のうち、未だ犠救委員会の適用決定がないものについては、原告らは被告に対し、主位的には債務不履行による損害賠償として、予備的には不法行為による損害賠償として、それぞれ、犠救金に相当する金員の支払を請求するものである。すなわち、被告には組合員に救済事由が生じた場合には犠救金を支払うべき一般的な義務があり、原告らには現実に救済事由が発生しているのであるから、被告は、原告らの申請を待つまでもなく、適用決定を行い犠救金を支払うべき義務を負い、原告らは、被告の内部処理に必要な期間が経過すれば当然に犠救金の支払が行われることを期待できる法的地位を有している。ところが、犠救委員会が適用決定をしないために、原告らは犠救金の支払を受けることができないのであるから、原告らは被告に対し、債務不履行による損害賠償として犠救金相当額(別紙1「集計表」の犠救金等欄に記載の金員)の支払を請求する。また、原告らが犠救金の支払を受けることができなくなったのは、被告が違法、無効な指令二七号を発して原告らの組合員資格を剥奪したためで、被告の代表者、執行委員は指令二七号が違法、無効であることを知り又は過失によってこれを知らなかったのであるから、原告らは被告に対し、民法四四条に基づき、不法行為による損害賠償として犠救金相当額(別紙1「集計表」の犠救金等欄に記載の金員)の支払を請求するものである。

(二) 被告の主張

(1) 原告らは、いずれも、被告の組合員資格を喪失している。すなわち、原告今永公男、同浜野功、同田中義巳、同石村昌弘、同吉村敏明、同船越莞太郎、同高良伸一、同石河正光、同吉田善憲、同堀内三十四、同上原利信、同中野恒文、同安松浩司、同合屋良基、同石橋勇治、同播磨由隆、同原田蔵、同脇坂吉男、同加幡英幸、同横山学、同小西広孝、同松田正寛、同田原重美、同境善政、同杉野三千夫、同石掛実、同梅崎邦昭、同宮原俊明、同北島三夫、同小山哲也、同西首松二、同津上良雄、同鳥飼豊行、同今村豊美、同松林忠利、同橋口義彦、同小田康人、同藤川誠治、同田村昌弘、同江田久夫及び同神戸剛二は、前記一の2(九)摘示の原告平川辰幸、同槻木敏雄、同金子昭男及び同加藤千加雄と共に、指令二七号が発せられた日の翌日である昭和四五年二月一八日に全福中労の結成に参加することによって被告から離脱したもので(同月二四日には一括して脱退届を提出している。)、再登録とは関係なく被告の組合員資格を喪失した。

また、原告斎藤宗護、同有吉常裕、同北口菊男、同栗秋和治、同石田利夫、同小金丸吉隆、同市丸宗俊、同上田学、同太田隆興、同木原一信、同岩野準司、同村上敏幸、同宮森勝基、同百田直孝、同村田敏廣、同石井登、同崎山登、同筒井優、同野田照幸及び同吉良正夫は、被告が指令二七号に基づいて実施した再登録においてその申請をしなかったので、期限である同月二二日の経過によって被告の組合員資格を喪失した。仮にそうでないとしても、原告市丸宗俊は同年五月一日に、同小金丸吉隆は同年六月一日に、同斎藤宗護、同有吉常裕、同北口菊男、同栗秋和治、同石田利夫、同太田隆興、同木原一信、同岩野準司、同宮森勝基、同百田直孝、同村田敏廣、同石井登、同崎山登、同筒井優、同野田照幸及び同吉良正夫は昭和五二年九月一日に、それぞれ、全福中労に加入したので、これによって被告から離脱しその組合員資格を喪失した。

(2) 再登録による資格喪失について

指令二七号が発せられた昭和四五年二月当時、被告の組合規約に再登録についての明文の規定はなかったが、被告は、組合規約二三条に定められた中央執行委員会の緊急事項処理の権限に基づいて再登録を実施したものである。組合員の行動によって団結が破壊の危機に瀕し、組合規約に明定された統制手段をもってしては団結を守るに無力であると認められる非常事態においては、組合規約に明文の規定がなくとも、再登録のような団結を守るために必要な適宜の統制手段によって団結破壊に対処することができることは、団結を生命とする労働組合の性格からして当然である。本件再登録の場合、中央本部の組織対策がことごとく不成功に終わり、支部旧執行部があくまで中央本部の統制に反抗して中央本部に対する反対運動を展開したため、直前に行われた団結確認署名によって中央本部の統制に従う意思を明らかにした組合員の数は、福岡中央郵便局の組合員約五〇〇名中約三〇〇名にすぎず、残りの約二〇〇名は、支部旧執行部に同調するグループ又は去就に迷うグループのいずれかに属するものと考えられたが、このように支部の団結が破壊の危機にある事態のもとでは、約五〇〇名の組合員のうち約二〇〇名という多数の者を制裁にかけることは実際上不可能であり、組織対策上不得策でもあって、再登録という統制手段をもってしなければ対処できない非常事態であったのである。

また、再登録は、被告の統制下に復帰して被告組合に留るか、それとも、あくまで統制に服することを拒否して組合員資格を失うかの選択を組合員本人の意思に任せ、そのことによって被告の統制下に復帰することを期待すると共に、統制に服する意思のない者が被告組合内において統制違反活動を継続する余地を封ずるものであるから、団結を守るために必要な最少限度において組合員の権利に加えられた制約である。更に、本件再登録以前に、被告が下部組織の混乱に際し組織の崩壊を食い止めるために再登録を行ったのは、昭和三八年の東京地方本部羽田空港支部、昭和四〇年の東京地方本部石神井支部、昭和四一年の兵庫地区本部西阪神支部西宮郵便局分会、昭和四三年の東京地方本部練馬支部の四回を数えるが、これらの処置については、その都度、中央委員会及び全国大会の全会一致の承認を得ており、本件再登録が実施された昭和四五年二月ころまでには、組織混乱の収拾策として再登録制度が確立し、組合員の法的確信によって支持されるに至っていた。

したがって、本件再登録は有効であり、再登録申請をしなかった者は、再登録申請の期限の経過により被告の組合員資格を失うに至ったのである。

(3) 犠救金の支給を受けるためには、犠救委員会の適用決定のあることが必要である。また、犠救規定の救済を受け得る資格は組合員である間と限定され(犠救規定二一条本文、四六条一号本文等)、脱退、除名になれば、支給は停止される(五一条)ばかりでなく、前渡分は返戻しなければならないのである(犠救規改正に伴う経過措置五条)。

原告らの犠救金請求のうち、犠救委員会の適用決定に基づいて犠救金の支給を受けていたものについては、組合員資格を喪失したことによって受給権を失ったのであり、その決定がないものについては、犠救金の支給請求も犠救委員会の適用決定もないまま組合員資格を喪失したために救済を受ける資格がなくなったもので、原告らの犠救金請求は、いずれも、理由がない。

なお、原告らが犠救委員会の適用決定があったと主張する前記(一)(3)のうち、原告今永公男の昭和四三年度見舞金五万円については、既に支給済みであり、その余の原告らに係るものについては、今日まで犠救委員会の適用決定はされていない。

2  本件の争点の第二は、被告が原告らに対して本件除名処分等を行ったことが不法行為になるか否かであり、この点に関する当事者双方の主張は、次のとおりである。

(一) 原告らの主張

(1) 被告は、昭和四五年一月中旬以降、原告らを「はねあがり分子」「組織破壊分子」などとする教宣を行い、更に、指令二七号を発した同年二月一七日以後は、「組合機関の決定に違反した」「組合の秩序を乱した」「統制違反行為者」「分裂主義者」「今永一派」などと非難したが、これらは、いずれも、原告らの名誉を毀損するものである。また、被告が行った本件仮制裁処分及び本件除名処分が朝日新聞、毎日新聞、西日本新聞及び被告の発行する全逓新聞等に掲載されたが、各処分はいずれも違法、無効であり、これによって原告らの名誉は著しく毀損され、精神的苦痛を受けた。したがって、原告らは、民法七一〇条に基づき、それぞれ、五万円の慰謝料を請求する。

(2) 被告は、違法、無効な指令二七号に基づいて再登録を実施し、これに応じなかった原告らの組合員資格を剥奪したが、被告の代表者、執行委員は、指令二七号が違法、無効であることを知り又は過失によってこれを知らなかったのであるから、組合員資格を剥奪されたことによる精神的苦痛を慰謝するため、原告らは、民法四四条に基づき、それぞれ、二五万円の慰謝料を請求する。

(3) 被告は本件仮制裁処分及び本件除名処分を行ったが、各処分はいずれも違法、無効である。

被告の組合規約四〇条一項五号には、組合員は制裁に対して上級機関に提訴並びに弁護する権利を有することが規定され、被告の審査委員会規則九条には、制裁審査委員会は当事者の意見を聴取しなければならないことが規定されている。しかし、本件仮制裁処分及び本件除名処分は、当事者の意見聴取を全くせずに行われた。被告の組合規約四六条二項、三項には、権利停止及び除名の場合には、支部又は地区決議機関に制裁の発議権があることが規定されているが、本件仮制裁処分及び本件除名処分は、支部又は地区決議機関の発議なしに行われた。このように、本件仮制裁処分及び本件除名処分は、被告の組合規約が定める手続に違反したものであって違法、無効である。

組合員の制裁については、被告の組合規約四四条に規定されているが、原告らは、いずれも、同条各号に該当するような行為はしていない。また、仮に同条各号に該当する点があったとしても、それは長期且つ深刻な紛争の最中のことであること、その紛争の原因は職場を明るくする会に対する被告の評価に問題があったためであることなどを考慮すると、本件仮制裁処分及び本件除名処分は、統制権の濫用であって違法、無効である。

被告の代表者、執行委員は、本件仮制裁処分及び本件除名処分が違法、無効であることを知り又は過失によってこれを知らなかったのであるから、違法な本件仮制裁処分及び本件除名処分を受けたことによる精神的苦痛を慰謝するため、民法四四条に基づき、本件除名処分を受けた原告ら(併せて本件仮制裁処分を受けた者を含む。)は、それぞれ、二〇万円、本件仮制裁処分を受けた原告ら(併せて本件除名処分を受けた者を除く。)は、それぞれ、五万円の慰謝料を請求する。

(4) 本件仮制裁処分及び本件除名処分を受けた原告らは、慰謝料の支払だけでは組合活動家としての名誉回復の手段として十分でないので、少なくとも西日本新聞及び全逓新聞に、二段半の面積をもって、別紙2「謝罪広告」記載の謝罪広告を掲載することが相当である。

(二) 被告の主張

(1) 被告は、組織の混乱収拾のために教宣活動を行い、その中で、中央本部を初めとする上部機関の正規の手続を経た指導、指令に従わず、組合の統制を無視してあくまで敵対的な行動を続け、組織の混乱を激化させた原告ら支部旧執行部派を指して、「組織破壊分子」その他原告ら指摘のような教宣を行い、また、別組合を結成した支部旧執行部派に対して「分裂主義者」その他の原告ら指摘のような非難を加えたのであって、いずれも、被告の組織対策として正当な行為である。

また、被告の非難は、被告の中にあって現に集団として分派活動を行っていた支部旧執行部派或いはその後実際に別組合を結成した集団を分派活動の故に集団的に非難したものであって、原告ら個々人を名指しで非難したものではないから、この点から考えても、被告の行為が原告らに対する名誉毀損を構成するものでないことは明らかである。

(2) 指令二七号は、前記1(二)(2)のとおり、再登録という統制手段をもってしなければ対処できない非常事態に対応するために出されたものであり、有効なものである。

また、原告らのうち、昭和四五年二月一八日に全福中労の結成に参加した者は、そのことによって組合員資格を失ったのであって、指令二七号に基づく再登録によって組合員資格を失った訳ではない。

(3) 原告今永公男らの支部役員は、中央本部の指導九項目に反発してその殆どが役員の辞任届を提出し、本件仮制裁処分が行われた同月一七日当時は、支部が被告の下部組織としての実態を殆ど失うに至っていたことから、審査委員会は、緊急の事態と認めて、積極的に分派活動を行っていることの明らかな原告今永公男らについて、組合規約四八条一項により職権をもって仮制裁の手続を開始し、中央執行委員会の決議を経て、本件仮制裁処分を行ったのである。弁明の機会の保障を定めた審査委員会規則九条は、通常の制裁手続に関する規定であって、緊急の場合に行われる仮制裁の手続には適用がない。本件仮制裁処分については、組合規約四八条二項により、同月二八日の第四六回中央委員会において承認を得ているのであるから、本件仮制裁処分は、内容的にも手続的にも何ら組合規約に違反するものではない。

(4) 本件除名処分を受けた原告らは、いずれも、全福中労の結成に参加した者であるが、労働組合の組合員が正式に脱退しないで組合に在籍したまま別組合を結成することは、分裂活動として最も重大な統制違反行為であるから、被告としては、原告らの組合員資格喪失後といえども、在籍中の分裂活動についてはその責任を糾明することが団結維持のために必要である。

そこで、被告は、全福中労の結成に参加した者のうち原告今永公男らを含む目立った者一九名に対し、審査委員会の職権で制裁手続を開始し、組合規約四六条二項の定める制裁審査手続に従い、中央執行委員会の決議を経て本件除名処分を行った。制裁申請手続に関する組合規約四六条の定めは、下部組織の発意によって制裁手続が開始される通常の場合を予想してその手続を定めたものであって、審査委員会が必要に応じて職権で制裁手続を開始する権限を有することを否定する趣旨の規定と解しなければならない理由はない。審査委員会の職権による制裁手続の開始が許されないとすれば、地区本部ぐるみの分派活動に対しては、制裁手続は実際上開始できないという不合理な結果になる。したがって、審査委員会が職権で制裁手続を開始したことが組合規約に反するものでないことは明らかである。また、原告らは、制裁手続開始前に既に別組合の結成に参加して被告の組合員資格を喪失し、その数日後には脱退届を提出して被告組合への所属を自ら否認しているのであるから、在籍中の分裂活動を理由とする制裁の手続において、既に別組合の組合員を名乗る原告らに対して出席を要求しても応ずるはずもなく、このような場合には、弁明の機会の保障を定めた審査委員会規則九条は適用がないというべきである。

以上のとおりであるから、本件除名処分が有効であることは明らかである。

第三争点に対する判断

一  争点1(原告らの組合員資格の喪失の有無及び犠救金請求の可否)について

1  前記第二の一2に説示した事実によれば、全福中労は、一旦は職場を明るくする会の扱いに関する中央本部の指導に従うことを表明した支部役員の殆どが、その直後に辞任届を提出して支部執行部の空白状態が生じたことから、中央本部が指令二二号及び二七号を発し再登録の実施等によって支部組織の再建を図ると共に辞任届を提出した支部役員らに対する仮制裁を決定したことに対し、これを不満とする旧支部長の原告今永公男ら八七名が結成した独立の労働組合であって、しかも、その結成は参加者の自由意思によることが明らかであるから、このような経緯に鑑みれば、全福中労の結成に参加した原告今永公男ら八七名は、右結成と同時に被告から離脱し、その組合員資格を喪失したものと解するのが相当である。けだし、職場を明るくする会の扱いをどのようにするかは、労働組合の在り方、労働運動の方針に関わる基本的な問題であって、この点に関する中央本部の指導を不満とする支部役員の殆どが辞任届を提出した上で新たに独立の労働組合を結成した以上、たとえ条件付で解散の意向を表明していたとしても、その結成に参加した者は、支部役員以外の者をも含めて、被告の組合員資格とは客観的に両立し得ない立場をとるに至ったものというべきだからである。

そうすると、原告今永公男、同浜野功、同田中義巳、同石村昌弘、同吉村敏明、同船越莞太郎、同高良伸一、同石河正光、同吉田善憲、同堀内三十四、同上原利信、同中野恒文、同安松浩司、同合屋良基、同石橋勇治、同播磨由隆、同原田蔵、同脇坂吉男、同加幡英幸、同横山学、同小西広孝、同松田正寛、同田原重美、同境善政、同杉野三千夫、同石掛実、同梅崎邦昭、同宮原俊明、同北島三夫、同小山哲也、同西首松二、同津上良雄、同鳥飼豊行、同今村豊美、同松林忠利、同橋口義彦、同小田康人、同藤川誠治、同田村昌弘、同江田久夫及び同神戸剛二は、全福中労を結成した昭和四五年二月一八日に被告から離脱し、その組合員資格を喪失したことになる。

また、原告平川辰幸、同槻木敏雄及び同金子昭男は同月二一日に、同加藤千加雄は同年三月五日に、同市丸宗俊は同年五月一日に、同小金丸吉隆は同年六月一日に、同斎藤宗護、同有吉常裕、同北口菊男、同栗秋和治、同石田利夫、同太田隆興、同木原一信、同岩野準司、同宮森勝基、同百田直孝、同村田敏廣、同石井登、同崎山登、同筒井優、同野田照幸及び同吉良正夫は昭和五二年九月一日に、それぞれ、前記のような経緯で結成された独立の労働組合たる全福中労に加入することによって、被告の組合員資格とは客観的に両立し得ない立場をとるに至ったのであるから、右加入と同時に被告から離脱し、その組合員資格を喪失したものというべきである(被告は、原告平川辰幸、同槻木敏雄、同金子昭男及び同加藤千加雄について、これらの原告は、いずれも、昭和四五年二月一八日の全福中労の結成に参加した旨を主張するが、結成後の加入であることは、前記第二の一2(九)に認定したとおりである。)。

なお、(証拠略)によれば、被告の組合規約には、退職等以外の理由により「脱退しようとする者は、脱退の理由をあきらかにし、支部に申し出て、地区本部、地方本部を経由して中央委員会の承認を必要とする。」との規定のあることが認められるが(三九条三項)、この規定は、個々の組合員が個別的な意思表示に基づいて組合から離脱する通常の場合を予想したもので、労働組合の在り方、労働運動の方針に関する見解の対立が原因となって多数の組合員が新たな労働組合の結成に参加し又はこれに加入した本件のような場合を予想したものとはいえない上、そもそも、離脱の効力の発生を組合の意思決定機関の承認に係らせることは、労働者の自由意思に基づく結合という労働組合の本質と相いれないから、右条項のあることは前記判断の支障とはならない。

以上によれば、原告上田学及び同村上敏幸を除くその余の原告らは、いずれも、全福中労の結成に参加するか又は結成後の全福中労に加入することによって被告から離脱し、その組合員資格を喪失したことになる。

2  原告らは、被告が全福中労の結成に参加した原告らの組合員資格の喪失を主張していることに関し、右主張は、違法、無効な指令二七号による効果を認める結果となるもので、信義則上許されない権利の濫用であり、公序良俗に反する行為であって、許されないと主張する。

しかし、被告の主張は、指令二七号の内容やこれに基づいて行われた再登録等の結果そのものを有効というものではないし、全福中労の結成自体が原告らの自由意思に基づいて行われたものである以上、右結成への参加を捉えて組合員資格の喪失を主張することは、何ら、権利の濫用とか公序良俗違反と評価されるべきものではない。また、原告らは、全福中労の結成は、団結権を自らの手で守るための緊急避難行為として已むなくされたものであると主張し、(証拠略)及び原告今永公男本人尋問の結果中には、全福中労の結成は、指令二七号によって組合員資格を剥奪される結果、被処分者が被告から受けていた犠救金を打ち切られて生活の保障が無くなることへの対策としてされたものであるとの部分がある。しかし、指令二七号の内容は、前記第二の一2(八)のとおりであって、再登録の実施と共に組合員資格の一時停止を命じたのみで、それ自体として組合員資格の剥奪を命じている訳ではないし、別組合を結成する以外に団結権や被処分者の生活を守る手段、方法が無かったものともいえないから(前記第二の一2(二)のとおり、原告上田学及び同村上敏幸は、再登録の無効を主張して訴訟を提起し、これに勝訴することによって被告の組合員資格を回復している。)、たとえ指令二七号が違法、無効であるとしても、全福中労の結成をもって緊急避難行為に当たると解することはできない。

したがって、被告が全福中労の結成参加による組合員資格の喪失を主張することが許されないことにはならない。

3  ところで、被告は、全福中労に加入していない原告上田学及び同村上敏幸のほか、再登録申請の期限後に全福中労に加入した原告小金丸吉隆、同市丸宗俊、同斎藤宗護、同有吉常裕、同北口菊男、同栗秋和治、同石田利夫、同太田隆興、同木原一信、同岩野準司、同宮森勝基、同百田直孝、同村田敏廣、同石井登、同崎山登、同筒井優、同野田照幸及び同吉良正夫について、これらの原告は、いずれも、再登録申請の期限である昭和四五年二月二二日までにその申請をしなかったから、同日の経過をもって被告の組合員資格を喪失したと主張する。

しかし、労働組合における組合員資格の得喪に関する事項は、組合員にとって最も重要且つ基本的なものであるから、この点に関して組合規約に規定が設けられている場合には右規定によるべきであって、規約所定の事由及び手続によらないで組合員資格を奪うことは許されない。このことは、(証拠略)から明らかなように、原告上田学及び同村上敏幸が被告を相手取って提起した組合員たる地位の確認を求める訴訟の判決において、最高裁判所が判示しているとおりである。しかるに、(証拠略)によれば、本件再登録当時、被告の組合規約上組合員がその意思に反して資格を喪失する事由として定められていたのは、除名の制裁のみであって、再登録については別段の規定のなかったことが認められ、また、被告主張の組合規約二三条が定める中央執行委員会の緊急事項処理の権限が、組合員資格の得喪に関するような重要事項を決定する権限までを含むものとは解されない。被告が過去に行ったという四回の再登録についても、それが組合規約に規定されていない組合員資格の喪失事由として組合員の法的確信によって支持され、確立した慣行にまで至っていたことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告は、組合規約所定の除名及びその手続によらないで組合員資格を剥奪することは許されず、右原告らが期限までに再登録の申請をしなかったとしても、これによって被告の組合員資格を喪失したものということはできない。

4  次に、前記第二の一4(二)に記載した原告らには、被告の犠救規定が定める救済事由が生じているので、組合員資格の喪失の有無との関連において、右原告らの犠救金請求の可否について検討する。

前記第二の一4(一)説示のとおり、被告は、その組合員に組合機関の決定に基づいた組合活動により解雇、免職、昇給延伸等の救済しなければならない一定の事由が生じた場合には、犠救委員会の適用決定に基づき、犠救金を支払うこととしている。そこで、犠救金支給の具体的な要件及び内容についてみるに、(証拠略)によれば、被告の犠救規定には、給与補償について「組合員である間満六〇歳に達するまで郵政省より当然うけるべき給与および諸手当を支給」する(二一条一項柱書)との規定が、昇給延伸の補償について「昇給延伸が発生した昇給期を基準として、以後三年毎にその該当期分をそのものが組合員である期間補償する。」(四六条一号本文)との規定が、また、補償の終了について「第四六条の適用を受けているものが脱退(退職、死亡を除く)または除名された場合は第四六条乃至第五〇条は適用を停止する。」(五一条)との規定のあることが認められ、これによれば、被告の組合員が犠救金の支給を受けることができるのは、組合員資格を有する期間に限られ、組合員資格を喪失した場合には、仮に組合活動に基づく経済的損失が在職中の全期間に及ぶような場合であっても、犠救金の支給を受けることができないことが明らかである。

また、(証拠略)によれば、被告の犠救規定には、「この規定の運用は、中央執行委員会の責任において行うものとして、中央執行委員会に犠牲者救済委員会を設置し、具体的な救済を決め、一切の事務に当たる。」(三条)、「犠牲者に対する救済の範囲および内容は、この規定により、その事由、客観的条件その他の事情をもとに決定する。」(五条)、犠救委員会の議事について「規定に基づいて適用の決定をする。」(六七条二項四号)との規定のあることが認められ、これによれば、犠救金の支給は、犠救規定が定める救済事由の発生によって自動的に行われるものではなく、犠救委員会の適用決定があって初めて行われるものということができる。しかも、犠救委員会による適用決定について、右のように「犠牲者に対する救済の範囲および内容は、・・・その事由、客観的条件その他の事情をもとに決定する」との規定があることからすると、救済事由が生じた場合の救済の可否及び内容については、救済委員会に一定の裁量が認められているものと解するのが相当である。このことは、本件の犠救制度が組合活動によって組合員の受けた経済的損失を補償することにより被告組合の団結の維持、強化を図るための制度であって、このような制度目的による制約を否定することができないことによっても明らかである。したがって、例えば、組合費を納入しない組合員に対して適用決定をしないとか、或いは、救済事由が発生してから適用決定を行うまでの間に組合員資格を喪失した者について適用決定を行わないことがあったとしても、そのことだけで直ちに、犠救委員会の判断ないし措置が違法となるものではないというべきである。

そうすると、組合員資格の喪失後に発生した救済事由について犠救金の支給が問題となる余地がないことはいうまでもないが、組合員資格を有する間に救済事由が発生した場合であっても、犠救委員会が適用決定を行う前に組合員資格を喪失した場合には、犠救金の支給を受けることができないものと解すべきであり、しかも、犠救委員会が不当な目的をもって適用決定を遅らせたなどの特別の事情がない限り、適用決定をしないで経過したこと自体が債務不履行や不法行為を構成することはないというべきである。

5  そこで、原告ら各人の犠救金請求について具体的に検討する。

(一) 原告今永公男は、昭和四五年二月一八日に被告の組合員資格を喪失したのであるから、それ以後(昭和四五年度の犠救金が同年二月一八日以前の事由に基づくものであることを認めるべき証拠はない。)に発生した事由について被告に犠救金の支給を請求する権利はない。また、昭和四三年度の見舞金五万円については、原告今永公男の署名及び捺印が同人のものであることに争いがないので真正に成立したものと推定すべき(証拠略)によれば、被告から原告今永公男に対して支払済みであることが認められる。

これに対し、昭和四三年度の加算金二〇〇万円、昭和四四年度の任意出頭二〇〇〇円、家宅捜査二〇〇〇円、起訴一万円、給与四万八八六〇円については、救済事由が組合員資格を喪失する以前のものであるが、弁論の全趣旨によれば、犠救委員会の適用決定が行われていないことが認められる。しかし、原告今永公男は、犠救委員会の適用決定を待たずに昭和四五年二月一八日に被告の組合員資格を喪失したのであるから、犠救委員会が適用決定を行わないからといって違法ということはできない。犠救委員会が不当な目的をもって適用決定を遅らせていたことを認めるべき証拠もない。

したがって、原告今永公男の犠救金請求は理由がない。

(二) 原告浜野功、同田中義巳、同石村昌弘及び同吉村敏明は、いずれも、昭和四五年二月一八日に被告の組合員資格を喪失したのであるから、それ以後(昭和四五年度の犠救金が同年二月一八日以前の事由に基づくものであることを認めるべき証拠はない。)に発生した事由について被告に犠救金の支給を請求する権利はない。これに対し、昭和四四年度の犠救金については、弁論の全趣旨によって犠救委員会の適用決定が行われていないことが認められるが、右原告らは、犠救委員会の適用決定を待たずに昭和四五年二月一八日に被告の組合員資格を喪失したのであるから、犠救委員会が適用決定を行わないからといって違法ということはできない。犠救委員会が不当な目的をもって適用決定を遅らせていたことを認めるべき証拠もない。

したがって、右原告らの犠救金請求は、いずれも、理由がない。

(三) 原告船越莞太郎、同高良伸一、同石河正光、同吉田善憲、同堀内三十四、同上原利信、同中野恒文、同安松浩司、同合屋良基、同石橋勇治、同播磨由隆、同原田蔵、同脇坂吉男、同加幡英幸、同横山学、同小西広孝、同松田正寛、同田原重美、同境善政、同杉野三千男、同石掛実及び同梅崎邦昭は、いずれも、昭和四五年二月一八日に被告の組合員資格を喪失したのであるから、それ以後(昭和四五年度の犠救金が同年二月一八日以前の事由に基づくものであることを認めるべき証拠はない。)に発生した事由について被告に犠救金の支給を請求する権利はない。

したがって、右原告らの犠救金請求は、いずれも、理由がない。

(四) 原告平川辰幸及び同槻木敏雄は、いずれも、昭和四五年二月二一日に被告の組合員資格を喪失したのであるから、それ以後(昭和四五年度の犠救金が同年二月二一日以前の事由に基づくものであることを認めるべき証拠はない。)に発生した事由について被告に犠救金の支給を請求する権利はない。

したがって、右原告らの犠救金請求は、いずれも、理由がない。

(五) 原告斎藤宗護、同有吉常裕、同北口菊男、同栗秋和治、同石田利夫、同太田隆興、同木原一信及び同岩野準司の昭和四五年度ないし昭和四九年度(原告太田隆興及び同木原一信については昭和四四年度ないし昭和四九年度)の犠救金については、弁論の全趣旨によって犠救委員会の適用決定が行われていないことが認められるが、右原告らは、いずれも、犠救委員会の適用決定を待たずに昭和五二年九月一日に被告の組合員資格を喪失したのであるから、犠救委員会が適用決定を行わないからといって違法ということはできない。もっとも、犠救委員会が救済事由の発生から組合員資格の喪失まで最大で七年(原告太田隆興及び同木原一信については最大で八年)にもわたり適用決定をしないで経過したことの問題はあるが、これは、被告が右原告らは再登録を申請しなかったことにより昭和四五年二月二二日の経過をもって組合員資格を喪失したとの扱いをしたためと解されるもので、特に不当な目的をもって適用決定を遅らせたものと認めるべき証拠はないから、右資格喪失扱いの違法を理由として後記損害賠償を認めるほかに、適用決定の遅延自体による損害賠償までを認めることはできない。

したがって、右原告らの犠救金請求は、いずれも、理由がない。

(六) 原告市丸宗俊は、昭和四五年五月一日に被告の組合員資格を喪失したのであるから、それ以後(昭和四五年度の犠救金が同年五月一日以前の事由に基づくものであることを認めるべき証拠はない。)に発生した事由について被告に犠救金の支給を請求する権利はない。

したがって、原告市丸宗俊の犠救金請求は理由がない。

(七) 原告小金丸吉隆は、昭和四五年六月一日に被告の組合員資格を喪失したのであるから、それ以後(昭和四五年度の犠救金が同年六月一日以前の事由に基づくものであることを認めるべき証拠はない。)に発生した事由について被告に犠救金の支給を請求する権利はない。

したがって、原告小金丸吉隆の犠救金請求は理由がない。

(八) 原告上田学は、全福中労に加入した事実はなく、ほかに被告の組合員資格を喪失したことを認めるべき証拠はないから(かえって、前掲第二の一2(二)のとおり、原告上田学は、同村上敏幸と共に、被告を相手取って組合員たる地位の確認を求める訴訟を提起し、昭和六二年一〇月二九日、最高裁判所において勝訴の判決を得て被告の組合員資格を回復している。)、被告には、原告上田学に対し、犠救委員会の適用決定に基づいて犠救金を支給すべき債務があることになる。もっとも、犠救委員会が長期間にわたり適用決定をしないで経過したのは、被告が原告上田学は再登録の申請をしなかったことにより昭和四五年二月二二日の経過をもって被告の組合員資格を喪失したものとして扱ってきたためと解されるもので、特に不当な目的をもって適用決定を遅らせたことを認めるべき証拠はないから(ただし、右最高裁判所の判決によって組合員資格を回復した後に犠救委員会がどのような措置をとったかを明らかにした証拠はない。)、右資格喪失扱いの違法を理由として後記損害賠償を認めるほかに、適用決定の遅延自体による損害賠償までを認めることはできない。

したがって、原告上田学の犠救金請求は理由がない。

(九) 以上によれば、原告らの犠救金請求は、いずれも、理由がないというべきである。

二  争点2(本件統制処分等を行ったことが不法行為となるか否か)について

1  被告が原告らに対して組織破壊分子等の教宣活動を行い、分裂主義者との非難を加えたことが原告らの名誉を毀損する不法行為となるか否かについて検討する。

労働組合の民主的な運営を確保するためには、組合員の組合に対する批判の自由が認められることが不可欠の条件であるが、他方、組合自身、具体的には組合執行部にも、組合の団結を維持しその内部規律を保つために、統制の権利と共に組合員の批判に対する反論の機会が保障されるべきである。組合執行部としては、組合員の批判をただ単に受忍する以外にないというものでは決してない。そして、組合員と組合執行部との間の相互の討論、批判を通じて民主的な組合運営が図られていくのであるから、組合員の組合執行部に対する批判であれ、組合執行部の組合員に対する反論や批判であれ、その内容、方法等が社会通念に照して著しく適切を欠くという場合でない限り、それが名誉毀損として不法行為となることはないと解するのが相当である。これを本件についてみると、被告の地区本部及び中央本部と支部執行部とは、職場を明るくする会の評価、扱いを巡って対立し、中央本部の指導を不満とする支部役員の殆どが辞任届を提出して執行部が空白状態となり、指令二二号の徹底を図るオルグ活動や団結確認書への署名活動も不成功に終るという状態が生じ、昭和四五年二月一八日には、旧支部長の原告今永公男ら八七名によって全福中労なる別組合が結成されるに至ったのであるから、このような組織的混乱のもとでは、被告が、原告今永公男らに対して、同年一月中旬以降、「はねあがり分子」「組織破壊分子」などとする教宣活動を行い、指令二七号を発した同年二月一七日以後は、「組合機関の決定に違反した」「組合の秩序を乱した」「統制違反行為者」「分裂主義者」「今永一派」などと非難したからといって、その内容、方法等が社会通念に照して著しく適切を欠くということはできず、かえって、組織防衛の観点から已むを得ないものがあると解されるから、被告の右非難が原告らの名誉を毀損するものということはできない。

したがって、被告の右非難が不法行為に当たることを前提とする原告らの慰謝料請求は理由がない。

2  本件仮制裁処分が違法であって不法行為となるか否かについて検討する。

(証拠・人証略)の全趣旨によれば、被告の組合規約四四条には、「組合員で次の各号に該当するものは制裁をうける。〈1〉組合の綱領、規約及び組合機関の決定に違反したとき、〈2〉組合の名誉を著しく汚す行為のあったとき、〈3〉組合の秩序をみだしたとき、〈4〉正当な理由がなく組合費および準組合費の納入を三ヵ月以上滞納したとき」と規定され、四六条三項には、「権利停止および警告は、支部又は地区決議機関の決定により地方本部執行機関あるいは決議機関の賛成を経て、別に定める審査委員会に申請し、その答申により中央執行委員会の議を経て組合の決議機関の承認をうけなければならない。この決議は出席構成員の三分の二以上の賛成を必要とする。」と規定され、四八条一項には、「制裁について極めて緊急なるものと審査委員会が判断した場合は、規約四六条の定めにかかわらず、審査委員会は中央執行委員会の議を経て、仮りの制裁を行うことができる。」と規定され、同条二項には、「前項による仮りの制裁を行った場合は、規約四六条により決議機関の承認を求めなければならない。」と規定されていること、被告は、組合規約四八条一項に基づき、昭和四五年二月一七日付で、原告今永公男らに対し、指導九項目、指令二二号に反対し役員を辞職し支部の組織再建途上において地区本部の努力に対し自らの責任を放棄し全逓組織の誹謗、中傷などによる妨害を行い著しく組織を混乱させるなどの行為を行ったことが組合規約四四条に抵触することを理由として本件仮制裁処分を行ったこと、本件仮制裁処分については、同月二八日に中央委員会の承認を得ていることが認められる。

被告の地区本部及び中央本部と支部執行部とは、前記のとおり、職場を明るくする会の評価、扱いをめぐって対立し、中央本部の指導を不満とする支部役員の殆どが辞任届を提出する事態となり、指令二二号の徹底を図るオルグ活動や団結確認書への署名活動も不成功に終るという支部の組織的混乱が生じていたのであるから、被告が緊急事態であると判断して組合規約四八条が定める仮制裁の手続をとり、その結果として、原告今永公男らに対して権利停止という本件仮制裁処分を行ったことは、被告の団結維持のために必要な措置であって、内容的に不合理なものということもできず、本件仮制裁処分が違法であるとはいえない。

原告らは、本件仮制裁処分を行うに当たっては弁明の機会が与えられておらず審査委員会規則九条に違反すると主張するが、同条は、組合規約四六条が定める通常の制裁手続に関する規定であって、緊急の場合に行われる仮制裁手続には適用されないと解されるから、本件仮制裁処分が審査委員会規則九条に違反するものとはいえない。

したがって、本件仮制裁処分が不法行為に当たることを前提とする原告らの慰謝料請求は理由がない。

3  本件除名処分が違法であって不法行為を構成するか否かについて検討する。

(証拠略)によれば、被告の組合規約四六条二項には、「除名は支部または地区決議機関の決定により、地方本部執行機関或いは決議機関の賛成を経て、別に定める審査委員会に申請し、その答申により中央執行委員会の議を経て組合の決議機関の承認をうけなければならない。この決議は出席構成員の直接無記名の秘密投票による三分の二以上の賛成を必要とする。」と規定されていること、ところが、被告は、この規定によることなく、審査委員会の職権で制裁手続を開始し、昭和四五年二月一九日付で、前記第二の一3(二)記載の原告今永公男らに対し、地区本部の努力に対し自らの責任を放棄し全逓組織の誹謗、中傷などによる妨害を行い著しく組織を混乱させ更に同月一八日全福中労という第三組合の結成に参画し又は指導的役割を果し積極的に全逓を分裂させる行動を行ったことが組合規約四四条に違反することを理由として、本件除名処分を行ったこと、本件除名処分については、同月二八日に中央委員会の承認を得ていることが認められる。

本件除名処分は、審査委員会が職権で制裁手続を開始したものであるが、組合規約四六条の規定は、審査委員会が職権で制裁手続を開始することを全く認めない趣旨とまで解することはできないから、審査委員会が職権で制裁手続を開始したからといって、違法があるとはいえない。また、本件除名処分に当たっては、審査委員会規則九条に定める弁明の機会が与えられていないが、原告今永公男らは、本件除名処分が行われるよりも前に全福中労を結成してこれに参加しており、弁明の機会を与えても出頭に応ずる状況ではなかったことが明らかであるから、弁明の機会を与えなかったからといって、同様に、違法があるとはいえない。仮に、審査委員会が職権で制裁手続を開始したこと及び審査委員会規則九条に定める弁明の機会を与えていないことが違法であるとしても、それは、本件除名処分に手続上の瑕疵があるに止まるから、私法上の効果に影響があるかどうかは別として、直ちに不法行為を構成するものとはいえない。

そして、組合員が組合に対して脱退届を提出しないままで別組合の結成に参加することは、重大な統制違反行為であるから、被告が原告今永公男らに対して本件除名処分を行ったことは、統制権の行使として相当なものであり、また、別組合の結成参加によって既に組合員資格を喪失した者に対して遡って除名処分を行うことも、確認的な意味を有するものとして許されないことではないから、内容的に特に問題はないと解される。

したがって、本件除名処分が不法行為に当たることを前提とする原告らの慰謝料請求は理由がない。

4  以上のとおり、本件仮制裁処分及び本件除名処分は、いずれも、制裁として違法ということはできず、したがって、被告がこれらの処分が行われたことを全逓新聞に掲載したことに違法はない。また、これらの処分が行われたことが西日本新聞等の商業新聞に掲載されたとしても、処分を受けた原告らに対する不法行為が成立する余地はない。

したがって、本件仮制裁処分及び本件除名処分が全逓新聞等に掲載されたことが不法行為に当たることを前提とする慰謝料請求及び謝罪広告掲載請求は、いずれも、理由がない。

5  被告が指令二七号により再登録を実施し、期限までに再登録の申請をしなかった者について組合員資格を喪失したものとして扱ったことが、不法行為となるか否かについて検討する。

組合規約所定の除名の方法によらずに組合員資格を剥奪することの許されないことは、前記第三の一3に説示したとおりであり、したがって、再登録の申請をしなかった者について、被告が期限の経過により組合員資格を喪失したものとして扱ったことは違法なものである。

ただし、再登録の申請をしなかった者のうち、原告今永公男、同浜野功、同田中義巳、同石村昌弘、同吉村敏明、同船越莞太郎、同高良伸一、同石河正光、同吉田善憲、同堀内三十四、同上原利信、同中野恒文、同安松浩司、同合屋良基、同石橋勇治、同播磨由隆、同原田蔵、同脇坂吉男、同加幡英幸、同横山学、同小西広孝、同松田正寛、同田原重美、同境善政、同杉野三千男、同石掛実、同梅崎邦昭、同宮原俊明、同北島三夫、同小山哲也、同西首松二、同津上良雄、同鳥飼豊行、同今村豊美、同松林忠利、同橋口義彦、同小田康人、同藤川誠治、同田村昌弘、同江田久夫及び同神戸剛二は、再登録申請の期限前である昭和四五年二月一八日に全福中労の結成に参加することによって、また、原告平川辰幸、同槻木敏雄及び同金子昭男は、同じく再登録申請の期限前である同月二一日に全福中労に加入することによって、それぞれ、被告から離脱しその組合員資格を喪失したのであるから、これら原告の組合員資格の喪失は、再登録申請の期限の経過とは何ら関係がないことになる。したがって、被告がこれらの原告について再登録申請の期限の経過によって組合員資格を喪失したものとして扱ったことに結局違法はないから、再登録の実施の違法を理由とする慰謝料請求を認めることはできない。

これに対し、再登録申請の期限前に被告の組合員資格を喪失した原告らを除くその余の原告らについては、再登録申請の期限の経過によって組合員資格を喪失したものとして扱うことは、違法に組合員資格を剥奪するものとして許されないところ、弁論の全趣旨によれば、被告の代表者は、少なくとも過失によってこれを知らなかったものと認められるから、不法行為を構成することは免れず、したがって、被告は、再登録申請の期限前に被告の組合員資格を喪失した原告らを除くその余の原告らに対し、民法四四条に基づき、組合員資格を喪失したものと扱ったことによって生じた損害を賠償する義務があることになる。そして、右損害賠償義務そのものは、これらの原告が再登録申請の期限の経過後に全福中労に加入したかどうかによって影響を受けることはないが、組合員資格を喪失したものとして扱われたことによる精神的損害に対する慰謝料額の算定においては、組合員資格を喪失したものとして扱われたことにより受けることのできなかった犠救金の有無、額のほか、組合員資格を喪失したものとして扱われた期間即ち再登録申請の期限が経過してから全福中労に加入するまでの期間或いは被告の組合員資格を回復するまでの期間の長短等をも諸般の事情の一つとして考慮すべく、そうすると、原告小金丸吉隆、同市丸宗俊及び同加藤千加雄については、それぞれ一万円、同斎藤宗護については三万円、同有吉常裕、同北口菊男、同栗秋和治、同石田利夫、同木原一信及び同岩野準司については、それぞれ二万円、同宮森勝基、同百田直孝、同村田敏廣、同石井登、同崎山登、同筒井優、同野田照幸及び吉良正矢については、それぞれ一万五〇〇〇円、同太田隆興については四万円、同上田学については一〇万円、同村上敏幸については八万円とするのが相当である。

第四結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、原告小金丸吉隆、同市丸宗俊及び同加藤千加雄について、それぞれ一万円、同斎藤宗護について三万円、同有吉常裕、同北口菊男、同栗秋和治、同石田利夫、同木原一信及び同岩野準司について、それぞれ二万円、同宮森勝基、同百田直孝、同村田敏廣、同石井登、同崎山登、同筒井優、同野田照幸及び同吉良正夫について、それぞれ一万五〇〇〇円、同太田隆興について四万円、同上田学について一〇万円、同村上敏幸について八万円、並びにこれらに対する不法行為後の昭和五〇年五月一六日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 太田豊 裁判官 草野芳郎 裁判官 山本剛史)

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